東日本大震災後に起こった電力株の暴落から5年

平成29年度税制改正要望の中から、個人的に気になったものをピックアップしてお届けします。

あくまで要望ですので、実現するかどうかは、12月の税制改正大綱をお待ちください。

今回は、金融庁が要望している上場株式等の相続税評価の見直し等です。

引用文・図表の出典は金融庁の「平成29年度 税制改正要望項目」からです。

財務省に提出された「上場株式等の相続税評価の見直し等【PDF】」もあわせて確認します。

現行制度

上場株式等の評価は、原則として相続時点の時価で評価されます。

正確には、評価の安定のために、相続時以前3か月間の各月の終値平均額と比較して、このうち最も低い価額で評価します。

しかし逆に言えば、「相続後」の事情はまったく考慮しないものとなっています。
○他方、上場株式等は価格変動リスクの高い金融商品。相続後、遺産分割協議等を経るまで資産を譲渡できない実態がある中、上場株式等については、相続税評価上、相続時から納付期限までの期間(10ヶ月間)の価格変動リスクが考慮されていない

○このため、上場株式等は価格変動リスクの低い預金や債券などの他の資産と比べて不利になっており、投資家の株式離れが助長されているとの指摘がある。
各資産の評価方法


要望の趣旨・内容

① 上場株式等の相続税評価額について、相続時から納付期限までの価格変動リスクを考慮したものとすることを要望。

② 相続時以後、通常想定される価格変動リスクの範囲を超えて価格が著しく下落した上場株式等については、評価の特例を設けること。

③ 上場株式等の物納順位について、第一順位(国債・地方債・不動産・船舶)の資産と同等となるよう、見直しを行うこと。
1つずつ見ていくことにします。

その1:時価の9割評価

要望の趣旨のとおり、事後に価格変動するリスクを考慮して、時価の9割評価が要望されています。平成28年度税制改正要望でもこの割引評価は要望されていましたが、割引幅が大きすぎたためか検討されなかったためか、今回は1割引と現実的なラインでの要望となりました。
株価1割引
なお、この要望が通れば、現在の直前3か月の各月平均を利用する方法は、廃止されると考えられます。
 

その2:相続後に暴落した場合の評価の特例

電力株といえば、安定した株として、東日本大震災の後、東京電力の株価が2011年3月11日時点で2,121円だったものが・・・
東京電力株価
例えば、4月8日には、420円となっていました。約8割減となっています。
東京電力株価2
このとき、2011年3月11日までに亡くなった方で、東京電力株式を大量に保有している方の上場株式の評価額は、通達どおりにいけば、あくまで相続の日を基準に「その日」か「その前」で評価することとなっていた点が、「どうにかならないのか」と問題となっていました。

このとき、東日本大震災による甚大な被害を受けた地域の「土地(土地を多く保有する会社の株式を含む)」については、「東日本大震災により被害を受けられた方へ(相続税・贈与税に係る財産評価関係)」にあるように、「震災の発生直後の価額(震災後を基準とした価額)」によることができるとされていましたが、「上場株式」は含まれていませんでした。


今回の要望では、「相続時以後、通常想定される価格変動リスクの範囲を超えて価格が著しく下落した上場株式等については、評価の特例を設けること」が要望されており、このような問題が解決できます。

例えば、50%くらい暴落したら、暴落時の時価で評価するなどが考えられますが、相続税の申告期限は10月以内ですので、どの時点で判断するのかが注目されます(さすがに10か月間は申告・納付がないのでありえません)。

・・・ただ、もともと相続前の株価を基準としていたのは、課税の公平性の観点からだったかと思いますので、相続後の事情を個別に考慮することについて、(通達の世界ですが)どのように説明するのかが個人的には興味があります。


その3:上場株式を物納順位第1位に

株価が暴落したけど暴落前の時価で評価しろというのであれば、その価値があるというわけだから、現金のかわりに東京電力株式を物納して、税金を払うことを考えるのは自然な流れです。

しかし、物納には、財産の種類によって順位をつけています。

 第1順位 国債、地方債、不動産、船舶

 第2順位 社債、株式、証券投資信託又は貸付信託の受益証券

 第3順位 動産

物納の要件自体が厳しいのですが、それをクリアしたとしても、株式は第2順位のため、たいていの場合、第1順位の「不動産」が先に物納財産となります。

そこで、今回の要望では、「上場株式等の物納順位について、第一順位(国債・地方債・不動産・船舶)の資産と同等となるよう、見直しを行うこと」と上場株式も第1順位となるように要望されています。

所感:非上場株式の評価への影響は?

上場株式の評価の変更は、会社が保有する上場株式についても影響が生ずるため、非上場株式の評価に連動します。

とはいえ、保有する上場株式の金額は、個人が保有する場合と比べると全資産に占める割合からして、それほど大きいことはないため、影響はないと考えられます。